50人が本棚に入れています
本棚に追加
ある日の帰り道、慎二はガムを膨らませながら歩いていた。
「こんばんは」
いきなり話し掛けられ、慎二の心拍数は一気にはね上がった。
日が暮れてしまい、誰の気配も感じなかったのにいきなり街灯の下に老紳士が現れたのだ。
老紳士の服はゲームに出てきそうな装飾が施されている。
(コスプレ…?)
「貴方には手間が掛かります。いつもフラフラと旅と言い…」
「あのー」
失礼と老紳士は咳払いをすると、一冊の赤い古びた本を取り出し慎二に渡した。
「慎也(しんや)君、貴方の本です」
「えーっと…俺は慎二ですよ?」
「え?慎也君ではないのですか?」
老紳士は驚いているのか目を開いたまま呆然としていた。
「慎也って多分、俺の祖父ですね」
「慎也君に会わせてもらえま…」
「3年前に亡くなりましたよ」
慎二はもういいでしょうか?と眉を寄せて、立ち去ろうとした。
が、手を掴まれて足が止まってしまう。
「すみません、亡くなったとは知らず…」
そう言った老紳士は目に涙を浮かべていた。
「大変遅れましたが、私はミーレェ・ヴァンと申します。その本はお祖父様の形見として貴方が持っていてください」
慎二は本を見ている間にミーレェは姿を消したようだった。
驚いた慎二は夢を見ているのかと思ったが、この赤い本はしっかりと自分の手元にある。
よく分からない奇妙な体験をした慎二は首を傾げて、鞄に本をしまった。
最初のコメントを投稿しよう!