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少女には付き合っている男がいた。
大学の同期生、その男のいつものふるまいとは裏腹に、案外と恋愛にはクールな、というより冷め切った男であった。
自由奔放で我の強い彼の毒にあてられて少女はその「男」という蜘蛛に捕らえられた。
そんな男との間に「恋心」という名のつく感情は生まれたが、「愛情」という名の感情が芽生える事は無かった。
その感情を芽生えさせるには、少女も蜘蛛もまだ子供過ぎた。
そんな幼い彼女を「女」にしたのは少女にとって只の友人の1人に過ぎなかった男だった。
「女」にしたと言っても別にその男が寝取ったわけではない。
引っかかった要因は女が一番弱い手、寂しい時に近くに居てくれて、欲しい言葉をくれる、そういう条件を満たす男だったからである。特に蜘蛛と上手くいってなかった時期に優しさをくれた。
その時、少女の心は大きく揺れた。
蝶々は元々寂しがり屋な少女だった。
彼女の両親は彼女に対し、溢れんばかりの愛情を注ぐことで彼女を愛らしい少女へと育てていった。
つまり、いつも近くに誰かしら居た彼女にとって、自分に愛情を注いでくれる対象の人間が少しでもそばに居ない ことはかなりの苦痛であったのだ。
だから蝶々は自分を捕らえている蜘蛛に対しても、振り向いて欲しくて、愛を返して欲しくて精いっぱい尽くした。
しかし、蜘蛛はそれでも、蝶々を自分の巣に捕らえていても尚、蝶々に自分から笑いかけることを余りしようとしなかった。
蝶々はそれが何より悲しかった。
-自分ハコンナニモ蜘蛛ニ尽クシテルノニ-
こんな言葉が蝶々の頭の中を幾度と無くよぎった。
こんなにも痛いほど愛の見返りを求めている自分を、蝶々は少し惨めにも思った。
蜘蛛の巣に引っ掛かっている自分に対し、仲間の蝶々たちは言う。
-ソンナ男、早ク切ッチャイナヨ-
そう言われながらも、彼女は蜘蛛の側を離れることが出来なかった。
確かに自分でも最近、蜘蛛のやること成すこと全てに少々腹立たしさを感じるようになっていることには気がついていた。
-デモ、ソレデモ…私ハ蜘蛛ト離レルコトハ出来ナイ…ダッテ我ガママデモ何デモ
彼ノコトガ好キダカラ…ココデ私ガ飛ンデ行ッテ何カガ変ワロウトモ、ソレダケハ動カシ得ナイ真実-
サナギは蜘蛛の巣の中で羽化し、蝶々となって空高く飛んで行った。
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