ドッペルゲンガー 第Ⅰ章

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コンコン。 常務室のドアがノックされた。秘書の勅使河原(てしがわら)が深々と頭を下げ、部屋に入ってくる。 年の頃、まだ30歳前後と言ったところか。彰吾は勅使河原を一瞥した。 そしてまた煙管の煙を吸い込み、吐き出した。 一瞬の沈黙の後、勅使河原が口を開いた。 「狭間常務、失礼致します。例の報告書を持って参りました。今回は常務も驚かれるかと…」 勅使河原は得意げにさらさらと口上を述べる。 「その科白は聞き飽きた!早くそれを置いて出て行け!!私は今、虫の居所が頗る悪い!!」 彰吾は勅使河原に罵声を浴びせた。兎に角、今日は機嫌が悪かった。勅使河原も部屋に入ってきた瞬間にそれを察知していたので一言だけ言い残し部屋を後にした。 「きっと常務もお気に召すと思いますよ?」と。 彰吾はフン、と鼻を鳴らし、面倒臭そうに薄っぺらい報告書を捲った。 彼はそれにハッと息を呑んだ。 どうやら勅使河原の言っていた事に嘘偽りは無かったようだ。 「珍しく良い仕事をしてきたな、勅使河原。」 嘲笑する。 それに記されていたのは16歳の小さな暗殺者(アサシン)。 顔は七臣と瓜二つで生年月日、血液型までも同一であった。 小さな暗殺者は海原七海(かいばら ななみ)という少女だった。 主に要人の暗殺を請け負う、名うての暗殺者、その成功率も高いと裏社会では有名であると報告書には記載されていた。 また、彰吾はこの少女に心当たりがあった。 「せいぜい利用させてもらおうじゃないか、七海。」 彰吾はこの少女だ、と確信していた。彼女なら屹度、否、絶対に七御身を始末するだろうと確信していた。 薄っぺらい報告書をぎゅっと握り締め、秘書を呼ぶ。 勅使河原はドアの外に控えていたのかすぐに部屋の中へ入って来た。 「勅使河原、この少女に決めた。探偵を雇ってこの少女の身辺を徹底的に洗え!!」 声を荒げた。 その声は歓喜に満ちている。勅使河原もそれを見逃さなかった。 彰吾の命に従い、跪く。 「御意。しかし何故この娘の…?」 彰吾はキッと眉を顰めて勅使河原を睨み付けた。 勅使河原はヒィっと悲鳴を上げ、慌てふためいた。 その声は上ずっている。 「し…失礼をば致しました。わっ…私目はこれで…」 大分怯えた様子で、勅使河原は途中躓きそうになりながら常務室を後にした。
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