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漂う空気が擦れあう音。
そんな存在さえ不確かな音を感じながら、青年は座していた。
無音。
目を開いても変わらない。
変わった事と言えば、ついさっきまで自分の視野を支配していた闇が薄れ、そこに銀色に輝く月が忽然と現れたという事だけだった。
今自分が座す背後を見渡したとしても、そこに広がるのは暗闇に溶けるようにうっそうと生い茂る木々だけ。
そう理解しつつも、この時スパーダ・ベルフォルマは立ち上がった。
「…誰だ?」
視線を肩越しに、一本の木に向ける。
音はしない。ただ、気配がする。
隠しきれないのか、それとも隠す気などさらさら無いのか、おどろおどろしい殺気がひたすら自分に向けられている事に、スパーダは勘づいていた。
月に背を向け、殺気の主が隠れているであろう方へと向き合う。
「隠れんならよお……もっと上手くやれや。ま、あんまオタクには似合ってねーみてーだけどな」
闇と静寂が支配する空間に明朗とした声が響く。
ややあって、挑発する様なスパーダの口調に触発されたのか、先程の木の陰から一人の男が姿を現した。
月の光に照らされ、徐々に姿が露になってゆく。
「お前がスパーダだな?」
そう呼び掛けると、男はその本人と対峙した。
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