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怒声の直後、その言葉の主が大木に叩きつけられる鈍い轟音を合図に、森は再び静寂を取り戻した。
先刻までとは違い、フクロウの鳴く声が微かに聞こえる。
地面に落ちた鞘を拾い剣を納め、スパーダはさっきまで座っていた地に再び腰を下ろした。
「(寒ィ…)」
手袋から露出した指先が、妙に冷える。
明日の朝は霜が降りるかもしれない。そんなことを考えながら、スパーダは明かりの灯る下町の光景を見下ろしていた。
暗闇が恋しくなる。
ある周期ごとに、彼が感じる心情だった。
この時ばかりは仲の良い不良仲間とも距離を置く。
町に居て耳に入る人々の話し声も、街灯の光も、いや、下町の空気でさえ、煩わしく思えてしまう。ただ気付くと、一人丘の森に繰り出し、ひたすら空を眺めている自分がいる。
そしてその度に、孤独とも寂寥感ともとれる念を心のどこかでスパーダは感じていた。
「ハーッ…」
「隙ありッ!!」
「!!」
ザッ
突然自分のすぐ後ろから上がった声に、スパーダ反射的に前へ跳んでいた。
そのまま肩膝を着いた状態で後ろに向き直り、剣に手を掛ける。
……が。
「そんな驚くなって。こっちがびっくりしたわ」
おどけてはいるものの、芯の通った精悍な声がスパーダに向けられた。
声は自分の前方からするものの、なぜか何も見えない。
この時初めて、スパーダは自分の頭に何かが乗っていることに気が付いた。
バッとそれを手に取り、改めて前を向く。
「……兄貴?」
「お久し」
スパーダの驚く顔とは対照的な和やかな笑みを浮かべ、その男はたたずんでいた。
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