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「どーだ最近。遊び疲れてないか?」
「…どんな嫌味だよそりゃあ」
「いや、レグヌムに着いてから最低5回はお前の名前を耳にしたからさ。…やたらガラの悪い奴ばっかだったけど」
「……退屈はしてねぇよ。少なくともあそこに居た時よりはマシさ」
「何戦何勝くらい?」
「いちいち数えるかよ。ま、とりあえず負けた回数を数えられる状況になったことは無ぇ。いつまでもコレだ」
そう言うと、スパーダは笑みを浮かべながら右手の指を曲げ「0」の形を作ってみせた。
「ハッ! 相変わらずみたいだな」
「…で?」
「ん?」
「何しに来たんだよ」
いつの間にか、スパーダの口調は静かかつ鋭いものになっている。
その変化を知ってか知らずか、青年は変わらない調子で答える。
「そりゃあお前…」
「『母さんに言われてお前を連れ戻しに』か?」
「…ハズレ。答えは『マンガの読みすぎだ。そーいうのはゴロツキには通じても、お兄さんには通じません』…だ」
「真面目に聞いてんだ!!」
森の木々を揺るがす程の大声をあげると、スパーダはゆっくりと立ち上がった。そして今度は静かだが揺るぎない口調で、続ける。
「…オレは戻らねえ。アンタも、ハルトマンも居ねえ、あんな家には…」
「甘ェ…」
「んだと?」
突如足元からあがった重く鋭い声に、スパーダは視線を落とした。
が、それはすぐに自分の目線と同じ高さに固定される。
「お前さっき『負けたことは無い』みたいなこと言ったよな。こうやってさ」
スパーダに背を向け歩きだした青年は、先程のスパーダの仕草を真似するように指で輪を作った。
「…………」
「でも、お前がまだ屋敷に居た時から数えてみろ。お前の指の数は足りるか?」
「………ッ!」
そう言う青年の口調には、先程までの和やかでおどけた様子は微塵も無い。
そして、すっかり黙ってしまったスパーダの方に向き直り、青年は腰に差した剣へ手を伸ばす。
「抜け。久しぶりに付き合ってやる」
全身に覇気を纏わせて竚む兄を目の前に、スパーダの頭の整理は全く追い付いていなかった。
―なんでこんな事に?―
―オレは剣を抜くべきか?―
―オレは兄貴に勝てるのか?―
何故兄貴は………いや、オレはなんで……
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