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記憶を思い出すうち、男は疑問に思う。女との記憶はある時を境に途切れてしまっているのだ。
この女とは別れたのだろうか。それとも一緒になったのだろうか。しかし上手くいったとすれば、記憶を小瓶に詰める必要などないだろうに。
しかし、途切れた記憶は突然甦る。
突然の雨、雷鳴。
他人の思い出に導かれ足をすすめる。街を抜け山道に入り、道ともいえぬ獣道を迷うことなく。
そして二股の樫の木。
男はもう思い出している。掘り返せば、この下に女の死体が埋まっていることを。
女の不貞に腹を立てて絞め殺したのだ。
甦る殺人の感触。
なんてことだ、この先ずっと殺人の罪悪感に怯えながら生きていかなければならないのか。
男は、女の死体の埋まる木の下で、がたがたと震えている。
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