第一章――中途半端と奇々怪々

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「あ、あの!」 「なんだ」 「ここって……霊的現象相談事務所……ですよね?」 「そうだ」 「霊に悩まされている人を助けてくれるんですよね……?」 「その通り」 立て続けの質問に対しても、所長さんはやはり淡々と、至極当然のように肯定していく。 所長さんの言葉を信じるのであれば、私がここに来たことは間違いではない筈だ。 私は、霊的現象に悩まされていて、目の前にいる男の人は、それを解決することができる人。 それならば、何の不安も懐疑も無く所長さんに頼ればいいだけの話――ではあるのだけれど……。 何故だろう、どうも不安が拭えない。 私の悩みの内容が、そもそも一般的には決して信じてもらえないようなものだけに、最初から多少の不安はあったのだけれど、それとはまた違う――私は、所長さん自身に不安を覚えている。 あの所長さん、変わり者だ。 絶対変わり者だ、否応なく。 この短時間での行動を見ただけでも断言できるほどに、あの人は普通という器からは飛び出している。 本に逆さまの状態で埋まっていたのにも関らず、窒息していないどころか、息一つ乱すことなくコーヒーの素晴らしさについて語りだしたり、今だってほら、コーヒーカップ片手に、さながら本の海のような状態の床を掘って掘って奥深くへと――。 「って、何やってるんですか!?」 私が考えに耽っている間に、所長さんは乱雑に積み重なった本を掘り起こし、その中にどんどん潜り始めていた。 やっぱり理解できない、行動の意図が理解できない……! 「ふむ……確かこのへんに湯沸かしポットを置いていた筈なのだ。 それと、その脇にインスタントコーヒーも」 慌てる私をよそに、所長さんは平静を保ったまま返答してくる。  
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