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「あ、あの!」
「なんだ」
「ここって……霊的現象相談事務所……ですよね?」
「そうだ」
「霊に悩まされている人を助けてくれるんですよね……?」
「その通り」
立て続けの質問に対しても、所長さんはやはり淡々と、至極当然のように肯定していく。
所長さんの言葉を信じるのであれば、私がここに来たことは間違いではない筈だ。
私は、霊的現象に悩まされていて、目の前にいる男の人は、それを解決することができる人。
それならば、何の不安も懐疑も無く所長さんに頼ればいいだけの話――ではあるのだけれど……。
何故だろう、どうも不安が拭えない。
私の悩みの内容が、そもそも一般的には決して信じてもらえないようなものだけに、最初から多少の不安はあったのだけれど、それとはまた違う――私は、所長さん自身に不安を覚えている。
あの所長さん、変わり者だ。
絶対変わり者だ、否応なく。
この短時間での行動を見ただけでも断言できるほどに、あの人は普通という器からは飛び出している。
本に逆さまの状態で埋まっていたのにも関らず、窒息していないどころか、息一つ乱すことなくコーヒーの素晴らしさについて語りだしたり、今だってほら、コーヒーカップ片手に、さながら本の海のような状態の床を掘って掘って奥深くへと――。
「って、何やってるんですか!?」
私が考えに耽っている間に、所長さんは乱雑に積み重なった本を掘り起こし、その中にどんどん潜り始めていた。
やっぱり理解できない、行動の意図が理解できない……!
「ふむ……確かこのへんに湯沸かしポットを置いていた筈なのだ。 それと、その脇にインスタントコーヒーも」
慌てる私をよそに、所長さんは平静を保ったまま返答してくる。
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