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十月――夏も終わり、秋の涼しさが街全体を包んでいる。
涼しい風は勿論、地面に落ちた木の葉の色も、視覚的に秋の到来を告げる。
白い息が出るほど寒いわけでもなく、汗をかくほど暑いわけでもない。
良くいえばすごし易い季節。
悪く言えば、中途半端な季節。
「中途半端なのは……私か」
ため息をこぼしながら、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。
秋のことを中途半端な季節だと言えるほど、私は立派な人間ではなかった。
私自身が、中途半端を具現化したような存在だからだ。
中途半端――自己主張が苦手、人付き合いも苦手、それでも友達はいる、生活が楽しくないわけではない。
学校でも目立つような生徒ではない、それでもいじめられているわけではない。
眼鏡をかけていて、休み時間は読書に耽っているが、それほど頭がいいわけでもない。
良く言ったとしても普通、悪く言えば地味――それが私。
淡々と自分の事を評価して、良いところが見つからないというのもどうなのだろう。
つくづく自分が嫌になる。
嫌になったところで、どうすることもできない、というか、どうしようともしないのだけれど。
「それでも……こればっかりは、自分から動かないと……」
言いながら、俯いていた顔を上げ、目の前の小奇麗な建物に目を移す。
赤茶色を基調とした、なんともお洒落な建物。
建っている場所が場所だけに、どうしてもその建物が辺りから浮いてみえ、まるでその場所だけ別の場所から切り取ってきたかのような印象を受ける。
建っている場所というのも――今私は、この街に生まれてから一度も来たこともないような場所にいる。
来たこともないというより、来る必要がないと言ったほうが正しいだろうか。
裏通りのそのまた裏、その裏の裏の裏通り。
それが今、私がいる場所。
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