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こんな場所に事務所が建っている時点で気軽に迎え入れる気がなさそうだし、あからさまにコーヒーでつろうとしている……無料とお代わりで巧みに顧客をつろうとしている……!
この危ない香りのする看板のせいで、私は秋空の下、一時間も立ち尽くしているというわけだ。
「駄目で元々……頼れるものには頼っておかないと……」
それでも、いつまでもこうしているわけにはいかない。
私は一度大きく深呼吸し、意を決して事務所の入口へと足を向けた――。
この事務所の事を知ったのは、ほんの二三日前の事。
まぁ、霊的現象相談事務所という胡散臭い場所に来ている時点で分かるとは思うのだけれど、私はその霊的現象とやらに悩まされている。
体調不良や怪我ならば、向かうべき場所は病院と決まっているのだが、霊に悩まされている人は一体どこへ向かえばいいのか……そんな事を考えながら歩いていた時だった、ふと、街中の電柱に薄汚れた広告が貼ってあるのを見つけたのは。
その広告には、この事務所の位置を示す地図と、霊的現象に悩まされている人来たれという、今の私を狙い澄ましたかのような謳い文句が書かれていて、嫌でもその広告は脳裏に焼き付いた。
それでも、事務所の位置が人気のない場所だったということや、本当にちゃんと解決してくれるのだろうかという不信感から、少しの間事務所に行くのを戸惑っていたのだけれど、昨日――命の危険を感じるような霊的現象が起きてしまい、今日ここに来るに至ったというわけだ。
木造の扉の前で足を止め、再び深呼吸。
自分で言うのもおかしな話だと思うのだけれど、こんな事務所に私が一人で来るなんて、ほとんど奇跡のようなものなのだ。
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