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――暫くして、本が溢れ出る音もおさまり、あたりに再び秋の静けさが戻ってきた。
呼吸も、通常通りとはいかないが、なんとか落ち着いている。
扉の影から出て、辺りの様子をうかがうと――。
「う、うわぁ……」
事務所の入口に向かうための通路は本で埋め尽くされ、事務所の外まで本がなだれ出ていた、大惨事だ。
ここまでくると、流石に事務所内の人間の安否を確かめなくてはならないという義務感が少しながら湧いてくる。
私が扉を開けたせいで、中の人が怪我をしてしまっているかもしれない……いや、でもこれだけの本が事務所内に詰まっていたとなると、扉を開ける前の状態の方が危険だったような気もする……と、とにかく、今は中の人の安否確認を優先しないと……!
事務所内の人が悪人かもしれないという考えなど頭の中から消し去って、溢れ出た大量の本をよじ登り、なんとか事務所内を覗き込んだ。
「あ、あの、誰かいます……? だ、大丈夫ですか……?」
消え入りそうな声で呼びかけてみるが、応答はない。
想像はしていたが、事務所内は本で溢れ返り、酷い有様だった。
こんなところに本当に人なんているのだろうかという疑問は、今は置いておいて、諦めずに声を掛け続ける。
「誰かいますか……?」
言いながら、事務所内へと踏み込む。
土足で本の上を歩くのは、読書好きとしては些か心が痛んだが、この状況では仕方がない。
何しろ、床が見えないのだから。
むしろ本が事務所内の床のような存在となっている。
歩く度に埃が舞うような埃っぽい事務所内を、バランスを崩さないように慎重に歩く。
何しろ床は大量の本が乱雑に積み重なっているだけなのだ、不安定極まりない。
足下を見ながら、一歩一歩、ゆっくりと進んでいく。
咳き込みながらも、誰かいないか事務所内を見渡すが、人はどこにもいない。
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