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本に埋もれて、ほんの上部しか見えない戸棚の中には、やけに小奇麗な食器やらマグカップやらが置かれているから、ここに誰かがいたのは確かだとは思うのだけれど。
「ん……あれは……?」
ふと、その戸棚の隣辺りに一際高く盛り上がっている本の山を見付けた。
本の山など、この事務所内では珍しいものではない、現に他にもいくつか本が大量に積み重なって盛り上がっている場所はある。
しかし、その本の山には、他の本の山と明らかに異なる点が一つだけあった。
本の山のてっぺんに――二本の何かが生えている。
視力の低い目を懸命に凝らすが、どうもその二本の何かが一体何なのかがわからない。
問題の本の山に近寄りながら、一旦眼鏡を外し、レンズに付着した埃を払う。
何度かこけそうになりながらも、やっとの思いでその本の山に近づくことに成功し、眼鏡を再びかけ直して、てっぺんの二本の何かを見上げた。
「ひっ――!」
二本の何かの正体に気付いて、思わず声をあげてしまう。
一体何がどうなってああいう状態になってしまったのかわからず、頭が混乱する。
え……何、どういうこと……!?
確かに私が扉を開けたのが原因なのかもしれないけれど、どんな器用な真似をしたらあんな結果に――。
大量の本が積み重なってできた本の山――そのてっぺんから生えていた二本の何かは、紛れもなく足だった。
人の、足。
黒のスーツ、そして黒の皮靴が、本の山のてっぺんから突き出ているのだ。
犬神家の一族を彷彿とさせる、さながらスケキヨのようだ。
……って、そんな事考えている場合じゃなかった……!
足が天井に向かって突き出ているということは、逆さまの状態で本に埋もれてしまっているという事。
下手したら窒息してしまう可能性だってある。
思い立った私は、急いでその本の山によじ登り始めた。
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