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「だ、大丈夫ですか!? 待っていてください、今助けますから!」
もしかしたら、本が崩れて自分も埋まってしまうかもしれないけれど、そんな可能性よりも目の前の現実の方を優先しなければならない。
逆さまの状態で埋まっているこの人こそが、この事務所の主かもしれない、私がここに来た目的を果たしてくれる人かもしれない。
もしこの人が、ここまで本を溜め込んだ張本人だとするならば自業自得ではあるのだけれど、それは後で追求すればいい話だ。
というかこの状況、笑っちゃ駄目なんだよね……笑っちゃ駄目なんだよね!?
「この声は……人間、それも女か。 久しぶりの客だ」
本の山のてっぺんにようやくたどり着こうかというとき、足下の方、というか、本の山の中から声が聞こえた。
私の呼びかけに対する、初めての応答。
足を二本突き出した逆さの状態という、言ってしまえば滑稽な状態であるにも関わらず、なんとも偉そうな口調、声色で、その人は言った。
「なるほど……急に本がなだれ始めたのは、君が事務所の扉を開けたのが原因というわけか」
「あ、あの、すみません! ……って、普通に喋ってますけど、その、大丈夫なんですか、結構危ない状態だと思うのですが……」
「死にそうではある」
「ですよね!」
助けを求められている、と解釈してもいいのだろうか。
まぁ、死にそうって宣言されてしまえば、助ける他ないのだけれど。
本の山のてっぺん、不安定な足場に、中腰で立ち上がる。
目の前には二本の足。
別に真っすぐ伸ばしている必要はないと思うのだけれど、何故かこの人は、足をぴんと伸ばしている。
性格が出ているのだろうか。
だとしたら結構な変わり者だ、会話からもそれが多少窺える。
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