負けないです!

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コンコン。 誰かが戸を叩いている。 小町は気付かないまま、寝息を立てていた。 ギィィィ…。 開いた戸の隙間から、あの男性が中の様子を伺っている。 「…寝ているのか…」 ゆっくりと中へ足を踏み入れ、掃除された部屋を見渡す。 埃を被っていた釜戸は綺麗にされて、本来の仕事を担っている。 「…フンッ!」 鼻を鳴らし、男性はテーブルの上に採れたての野菜を置いて立ち去った。 「…うっ…んへぇ…?」 窓から差し込む日差しが、床下に伸びている。 目を覚ました小町は、テーブルの上にある野菜に目を留めて、それから慌てて立ち上がり戸を開けた。 あの男性が馬に乗り、羊の群れを追いやっている。 「…お裾分け…してくれたのかな…」 小町は焼いたパンを3つ、袋に詰めると外へ飛び出した。 木の柵から身を乗り出して、大声で叫ぶ。 「すいませーん!!」 袋を振り回しながら、大きく手を振った。 男性は小町に気付くと、怪訝な顔をして肩を落とす。 そんな…あからさまに嫌な顔しなくても…。 こちらにやって来る男性は、長めの髪をなびかせて颯爽と風を切る。 見た目は良いが、考えてみたら変わり者の壮大な引きこもりだ。 「…何か用?」 「あ…お野菜、有難う御座いました。これ、良かったら食べて下さい。昼間焼いたパンなんですけど…」 袋を差し出すと、男性は眉をしかめて一言。 「要らない」 キッパリ断った。 「そう云う事で一々呼び出すな。迷惑だ」 …迷…惑…? 「必要なら野菜だって卵だって好きに取っていけ。その代わり、俺に構うな。俺の行動に黙って従え。話し掛けるな」 はぁぁぁ!? 何なのコイツ!! 何様よ!! 腹が立った小町は、袋を男性に叩きつけて、踵を返すと大股で歩き出した。 所詮、コイツも我が儘お坊ちゃんなんだ! 一生この島で引きこもってろ! バーカバーカ! 頭が噴火してしまいそうだった。 小屋の戸を思いっ切り閉めて、小町は貰った野菜を切り刻み、鍋にぶち込む。 あぁ、嫌だ嫌だ! どいつもこいつも、ふざけんじゃないわよ!!
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