負けないです!

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話し掛けるなと言い放った奴から話し掛けられた。 意味不明である。 男性の家まで運ばれた小町だったが、その原因をようやく悟った。 どうやら海に落ちた時、太ももを何かで切ったらしい。 スカートには血が滲んでいる。 「貝殻で切れたか…見事にパックリいってるな…」 男性は消毒薬で傷口を綺麗に洗い、ガーゼを当てると包帯で巻く。 「暫く動くなよ。化膿したら大変だからな」 「それは出来ません!私は私の生活がありますから!」 「お前はアホか!傷が化膿して、熱が出たらどうする!死ぬ事だってあるんだぞ!?」 「じゃあ、どうしろって言うのよ!」 思わず言い返してしまった。 理不尽な事ばかりで、小町は怒鳴る。 「貴方が言ったんじゃない!話し掛けるなって!」 「ここは俺の島だ!死人が出るなんて御免だね!何度も言ってるだろ!俺に従え!勝手な行動は慎め!」 「たかがこれしきの怪我、私は大丈夫だからお構いなく!」 「これしきの怪我で死ぬ事もあると言っただろ!馬鹿は黙ってろ!」 あーだこーだと言い合いになり、喧嘩は予想以上に長引いた。 久しぶりに腹の底から怒鳴ったせいか、小町の空腹が限界まで達し、大きな音で喧嘩は中断される。 「…つ…疲れた…お腹…空いた…」 「ちょ…ちょっと待ってろ…今…何か出すから…」 朝から体力を消耗してしまい、二人には言い争う気力は最早無い。 男性はテーブルに小町が昨日投げつけたパンと、牛乳にチーズ、ジャムやサラダを並べた。 「食べろ」 「…い…頂きます…」 二人は無心で朝食を胃袋に収める。 小町の作ったパンを口に入れた引きこもりは、訝しげに小町を見つめた。 「…アンタ…猪鹿の家のコックか?」 「…『アンタ』じゃない。私は小町です。因みにコックじゃないけど、亡くなった父がコックでした」 「…父親が…?お前、両親は」 「…『お前』じゃなくて小町です。…両親は…私が9才の時に…火事で亡くなりました」 「…そう…か…」 また無言が続き、皿が空っぽになると、男性はポツリと呟いた。 「俺の名前は…ウグドラだ。ウーラと…皆は呼ぶ」 そう告げると、ウーラは無愛想に牛乳を飲み干した。
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