負けないです!

6/9

1888人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
怪我をしているせいか、小町はウーラのベッドで横になっている。 太ももの傷は徐々に熱を帯び、燃える様に痛い。 意識を痛みから遠ざける為に、小町は部屋を観察していた。 風通しの良い大きな木枠の窓。 煉瓦が敷き詰められた床。 天井は木で組まれており、ランプが吊されていた。 棚にはギッシリ詰まった本が並んでいる。 隣の小屋と、差ほど造りは変わっていない。 素朴な部屋だった。 ウーラは長い事この島に、この家に住んでいるのだろうか。 手直しされた所が幾つかある。 ウーラさんって幾つなんだろ…まだ若そうだし…。 家に縛られる生活を嫌う気持ちが、少なからず分かる。 無理矢理縁談を押し付けられても嫌だろうけど…きちんと断って帰してあげたら良いのに…。 交錯する考えも裏腹に、小町はいつの間にか眠ってしまった。 『どうして!?どうしてお母様と一緒に暮らせないの!?紅、お母様と一緒が良い!!』 あぁ…あれは幼い日のお嬢様だ…。 泣きながら訴える紅を、小町は遠くで眺めていた。 父親は何も言わず、困った表情をしている。 『お母様はどこに居るの…?教えてよ…小町…』 何て言ったら良いのか、またあどけない自分自身も困っていた。 『小町のお父様とお母様は仲良しだった?』 『…はい…ですがもう…死んでしまいましたから…』 『でも、小町はお父様とお母様に愛されていたのよね…良いなぁ…お母様は紅よりも…』 父親ではない男を選んだ。 だから、お嬢様は結婚等しない。 『小町…何処にも行かないでね?』 寂しそうで、潤む瞳で見つめる紅に小町は『何処にも行きません』…と、何故か答える事が出来ない。 どうしてだろう…声が…出ない…。 「…こ…ここここ…小町…」 目を開けると、真っ赤な顔をしたウーラが居る。 「…ウーラさん…ごめんなさい…私…寝ちゃってて…」 「べっ…別に寝てようが気にしてない!もう夕方も過ぎたんだ!飯だ、飯!!」 何で何時も怒ってるのかなぁ…。 「ウーラさん」 「何だ!」 「…手を…貸して貰いたいんですけど」 一瞬躊躇い、ウーラは小町に手を差し伸べる。 何だか可笑しくて、小町は笑ってしまった。 笑ったらまた怒られたけれど。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1888人が本棚に入れています
本棚に追加