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あまり乗り気な話しではない。
紅に振り回され、これから先も変わらずに続くのだと思う。
夢だとか、楽しみだとか、そう云った希望も無い人生だ。
「…それは猪鹿のせいか?」
「…別に…そんなんじゃ…」
「お前…本当は辛い目に遭ってきたんだろ?猪鹿紅は優秀だと聞いたが、小町がそんな様子だと、そうでも無いんだろうな」
鋭い。
いや、私がこんなんだから見抜かれたんだ…。
無理に笑って『違います』と言うつもりだったのに、ウーラが先に言葉を塞ぐ。
「不細工な顔だな」
「……し…失礼なっ!!」
「無理して笑うからだ」
真っ黒な瞳がこちらを見つめている。
何も言い返せなかった。
腹が立つよりも、胸が締め付けられた様に苦しい。
喉が詰まった感覚と、息苦しさに眉をしかめる。
「…私…もう…寝ます…」
それが精一杯の強がりだった。
絞る様に出した言葉に、また喉の奥がギュッと狭まる。
「小町…!」
寝室を出て、小町は手探りで隣の小屋に戻って行った。
あぁ…眼鏡が無くて良かった…。
視界が悪い。
だから、夢の中と同じ。
もう直ぐ、私は元の私に戻って、夢は直ぐに忘れてしまうだろう。
まだ大丈夫。
まだ悲しくない。
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