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早朝。
少し荒い波を縫って、一隻の船がこちらに向かってくる。
途中で船を停止させ、大量の荷物をボートに積んでいるらしい。
ウーラの隣で、小町は黙ってその光景を眺めていた。
二人に会話は無い。
異国の住人が、異国の言葉でウーラと会話をしているが、靄が掛かった夢の様で不思議だった。
「…小町…ボートに乗れ。荷物を降ろしたら直ぐに出発するって」
「…そう…ですか…」
持ち帰る荷物の無い小町は、ボートに乗り込むとウーラに向かい頭を深く下げた。
楽しかった…。
本当に、楽しかった…。
ウーラの顔もぼやけて見えない。
同じ褐色の肌をした男性が乗り込むと、ウーラに向かって大きく手を振っていた。
どんどん離れていく孤島は、茜色の空と緑、海の色も、小町の視界の中で混ざっていく。
やがて、混濁した色が水彩絵の具に水を差した様にぼやける。
いつの間にか、小町は涙を拭っていた。
感情は大きくなって、それが身体全体を包んでしまい、耐えられず泣いた。
まだ、あそこに居たい。
まだ、彼と一緒に居たい。
我が儘だと、己を叱咤する心より、切望の念は遥かに大きかった。
唸る泣き声は、抱えた膝の中でくぐもって聞こえる。
もう…見たくない…!
こんな綺麗な風景、早く忘れたい…!
「…#゙@$*゚-&.=,$!?」
ボートを漕ぐ男性が、何か必死で叫んでいる。
「……ち…」
「……まち…」
「小町!!!」
ハッとして顔を上げる。
誰か…泳いでいる…のかな?
でも、ウーラさんが私を呼んでる…。
「小町!!待て!!行くな!!」
ボートがグラリと揺れた。
傾いたボートの縁に掴まり、小町は身体を強ばらせるが、突然腕を引っ張られ、海に引きずり込まれた。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
「馬鹿っ!暴れるな!」
しっかり抱かれた腰。
見上げると、ウーラが眉を寄せて凄んでいた。
「何で怒るの!?」
「違う!自分に怒ってるんだよ!!」
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