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高級そうな壺に、大輪の薔薇が誇らしげに咲いている。
ペルシャ絨毯を土足で踏むウーラの気が知れない。
仕いの男性がウーラと言葉を交わし、一礼して部屋から立ち去って行った。
フカフカのソファーに座り、弧を描くドーム状の天井を見上げ、ウーラは溜め息を吐く。
隣に座る小町は、瞬きを忘れた人形宜しく、背筋を正したまま凍っていた。
「…小町…お前、本当に自信持った方が良いぞ?俺は何十回と見合いしたが…ここに辿り着いたのはお前だけだ。それに、俺は両親に恋人を紹介した事も無いし、そもそも結婚するつもりは無かったし、一生独身だって弟達からも言われてたくらいだからな」
「……お見合いして…私と結婚するって…本気なんですか?私みたいに学も無くて、親戚から絶縁されてて、親も居ない…猪鹿家の使用人でしかない私を…ご両親が認めて下さるとは思えません…」
結婚は夢の様な話しだった小町にとって、今、ウーラの自宅に居る事が誰かの策略なのではないかと疑ってしまう。
まさか、また我が儘お嬢様の悪戯だったら…。
「私…やっぱり帰ります!不釣り合いです!」
「…はぁ?」
ウーラは眉をしかめて、立ち上がった小町を見上げている。
「あの…私…あの島で暮らしても良いですか?ウーラさんの代わりにちゃんと管理しますし、荒れない様にお手入れもします!だから…」
「お前…俺が何の為に島を出たと思ってんだよ!お前の為だろ!?戻ったって、きっと猪鹿紅に連れ戻されるに決まってる!俺はお前を自由にしてやりたいんだよ!」
「じゃあ、お見合いじゃなくて私を使用人として雇って下さい!何だってします!だから…」
やっぱり無かった事に…!
言い掛けた何処で、景色がぐるりと廻った。
両手首が痛い程掴まれ、直ぐ傍にウーラの顔がある。
押し倒されたと分かるまで、少し時間が掛かった。
「…俺が嫌いか?」
真剣な面持ちで呟くウーラに、小町は首を横に振って答えた。
「…俺は同情で動く男じゃない。もしそうなら、既に結婚してるだろうな。見合い相手を1ヶ月も放置する奴が、今更同情なんかするか?俺が見た目とか、学歴や家柄で相手を選ぶか?…長谷部小町が良かった。それ以外、何も無い」
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