たじたじです!

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「小夜子さんは…ウチの祖父さんと前妻の孫だ。戦争で生き別れたらしくてな、あっちも再婚してたみたいで60年経ってから偶然再開したって聞いた。祖父さんの葬式で一度会った事はあるが…。何でも、有名な学者さんが父親らしい。あれからもう30年も前の話しだから今はどうか知らん」 父親の家族関係すら小町は知らされていない。 遠い親戚と言われたら納得するのが子供である。 何の疑問も感じずに今までに至る訳だが、どうやら複雑らしい。 「兄貴は小夜子さんと仲が良かったんだよ。祖父さんの葬式の後だったか、小夜子さんと兄貴は年も近かったし、気が合ったんだろう。それ以降良く連絡を取ってたみたいだったな。兄貴は長男だが、コックになりたくて親父と良く喧嘩してた。後継ぎだから諦めろって…けど、兄貴は家を出て行った。親父は小夜子さんが兄貴を匿ってるんじゃないかって怒ってたけど」 「…夢の為に家を捨てたって…お父さん言ってたけど…『小夜子さん』って人の事…何も聞てない…本当にそうなら何で私に隠してたんだろう…」 どうして私は何も知らないんだろう? お母さんは知ってたのかな…。 小町の疑問は蟠りなって膨らんでいく。 両親にある謎。 それを解く為には『長谷部小夜子』を探さなくてはならない。 「…火事で兄貴が死んだって聞いた時に、全部知らされた。フランスで修業してた事も、日本に戻って店を開いた事も、結婚して子供が居たって事もな。兄貴は諦めの悪い所があったから、本当に夢を叶えたんだって思った。実際、俺には農業が向いてたから良かったんだが、兄貴が居なくなって本当に大変だったんだよ…。兄貴が憎くて仕方無かった…家族に散々迷惑掛けちまったからな」 叔父は犠牲になったのだ。 父親の夢の犠牲に。 父が死んで、葬式に出てくれただけ有り難いのだ。 「父に代わって、私が謝ります。本当に…ごめんなさい…ごめんなさい…!」 深く深く頭を下げた。 叔父は苦笑いをした後、小町に向かって口を開いた。 「…水を掛けてすまなかったな…叔父さんも大人気なかった。どうか頭を上げてくれ。それと謝礼は要らないよ」 そう言ってくれた。 最後に加えて、「今度は遊びにおいで」と笑った。 追っ払ったりしないから、と照れ臭そうに頭を掻いた。
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