たじたじです!

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一路、向かったのは母親の実家だ。 空港から素早く移動し、飛行機には乗らず新幹線で向かった。 大きなお屋敷に小町は息を飲む。 「私、国際弁護士の王嶺蓬と申します」 インターホン越しに、嶺蓬は言葉巧みにこの家の主を引きずり出した。 来てみて吃驚である。 「お…奥様…?」 優しい顔した清楚な女性は、小町を見て眉をしかめる。 「…貴女…小町ちゃん?」 紅を産み、猪鹿家から出て行った母親が目の前に居る。 お互い驚いたまま固まっていると、嶺蓬は名刺を差し出し事の経緯を説明した。 「…そう…そうだったの…。あ、どうぞ?良かったら中に入って?」 玄関へ続く道に咲く初夏の花々は、優しい匂いを漂わせて小町を迎え入れる。 …お母さんの…匂いだ…。 優しく抱き締める母の服は、花の良い香りがして、小町は何時も母に引っ付いていた。 『小町は甘えん坊ねぇ』 思い出すと涙が込み上げる。 小町が一番幸せだった時の匂い。 あの小さな店の、腹を鳴らす美味しい匂いと母が育てていた花の匂いは、何時までも小町を包んでいた。 玄関を開けて案内してくれた紅の母親。 すると、一人の老婆が小町に頭を下げて泣いている。 「あ…あの…」 「貴女のお祖母ちゃ…ではないわね。私の母です。最近痴呆が酷くて…迷惑掛けないようにするから」 つまり、母の母親なのだ。 「…好子ぉ…好子ぉ…」 母の名前を呟きながら、小町の手を強く握る。 「母さん、お姉様じゃないのよ?」 大きな屋敷に二人しか居らず、小町は不思議に思った。 何故だろう。 それなのに、満ち足りた雰囲気がする。 居間のソファーに座り、お茶を出された小町は礼を言って頭を下げた。 「小町ちゃんの事、良く知ってる。小夜子さんに似てるのに、雰囲気はお姉様そっくりだから」 向かいのソファーに座った紅の母親。 紅とは全く似ていない。 「私は鳥飼裕美です。王さん…と仰ったわね?後は付けられない?」 「はい。今の所は大丈夫です」 「なら安心ね。小町ちゃん、貴女には随分苦労を掛けてしまって…『ごめんなさい』では済まされないわ…」 小夜子さんに似てると言った裕美。 けれど、雰囲気は母に似てるとも言った。 私は…何者なの?
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