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『圭二…私…子供を育てるのは無理よ…貴方にだって夢があるでしょう?』
『安定期に入ってるのに、子供を殺すって言うのか!?』
『だって仕方が無いじゃない!どうすれば良いのよ…私の両親だって妊娠の事…知らないのに…圭二との子供だなんて言ったら…お父様…絶対許してくれないわ…服部の家を毛嫌いしてるもの…』
「…小夜子さんと圭二さんに因縁があるって知ったわ。長谷部のお祖父様が服部の家を毛嫌いしてるのは、お祖母様の前の嫁ぎ先で、お祖母様が服部のお祖父様をとても慕っていたら。長谷部のお父様はそれを凄く気にしていたの。あまり円満な家庭では無かったみたいだから」
『小夜子さん…なら私にそのお腹の子供を下さい!…子供の産めない私に…子供を下さい!!』
『…俺も…子供は殺したくない。小夜子が出来ないと言うなら、俺は好子ちゃんとお前の子供を育てる!』
「小夜子さん、本当は凄く子供が好きだったし…凄く悩んだみたいだったわ。圭二さんとの仲もギクシャクしてしまって…悩んで悩んで、貴女を産んだの。そして、圭二さんとお姉様に貴女を託した。『小町』って云う名前、小夜子さんが付けたのよ?淑やかく強く生きる、小夜子さんが書いた本の主人と同じ名前…」
淑やかく強く生きる。
その通りに生きているだろうか。
私は…。
「圭二さんとお姉様は日本に戻って結婚した。家族も承知してたわ。お姉様は、確かに幸せだったから…」
幸せだった。
それは小町も同じ。
大切に大切に、育てられていたと小町は確信している。
「私は猪鹿家の長男と結婚した。それまではとても優しい人だったのに…紅を産んだら豹変してしまったの…。紅が可愛くて可愛く、仕方が無い…余計な口出しをする私は、厄介者にされてしまったのね…。紅は女王様になった。私は…お姉様と圭二さんに相談しに良くお店へ通ったわ。あの圭二さんが作ったカレーライスを食べると…美味しくて…嫌な事も忘れちゃうくらい、元気が出た。小さな小町ちゃんがね、何時もお水を運んでくれて…私に言うのよ。『裕美ちゃん、元気出して!』って…」
小町は良く覚えていない。
遠い遠い、記憶の中だ。
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