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「こちらの書類にサインして下さい」
側近はそう言って、ペンと紙を差し出した。
目を通すが…。
「なっ…何て書いてあるの…?」
ズラリと並んでいるのは、見た事も無い文字にサインをする場所も判らず、小町は眉をしかめた。
横から覗いた紅も、首を傾げている。
「ここ…じゃない?適当にサインしなさいよ」
言われた通りに、紅が指差した場所に紅の名前を綴った。
「このお見合い、相手の素性が判らないのよ…でも、お父様が了解した話だから名だたる名家なのは確かだわ」
コソコソと耳打ちする紅に、小町は肩を落とす。
今頃言われたって…。
でも、相手が誰であれ早く終わらせれば良い事だ。
暫く待っていると、側近の男性が紅に話し掛けた。
紅は理不尽だと言わんばかりに食い付いていたが、半ば強引に外へ引っ張られていった。
取り残された小町は、ようやく溜め息を吐く。
窓の外を流れていく海は、群青色に染まり、変わらぬ波の規律が続いている。
立ち上がり、窓の外を眺めた小町だったが…。
「猪鹿紅様」
後ろから呼ばれ、小町は振り返った。
多分、側近の一人だろう。
少年だったのか青年だったのか、スーツ姿を目にした所から記憶は無い。
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