身代わりです!

5/9

1888人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「こちらの書類にサインして下さい」 側近はそう言って、ペンと紙を差し出した。 目を通すが…。 「なっ…何て書いてあるの…?」 ズラリと並んでいるのは、見た事も無い文字にサインをする場所も判らず、小町は眉をしかめた。 横から覗いた紅も、首を傾げている。 「ここ…じゃない?適当にサインしなさいよ」 言われた通りに、紅が指差した場所に紅の名前を綴った。 「このお見合い、相手の素性が判らないのよ…でも、お父様が了解した話だから名だたる名家なのは確かだわ」 コソコソと耳打ちする紅に、小町は肩を落とす。 今頃言われたって…。 でも、相手が誰であれ早く終わらせれば良い事だ。 暫く待っていると、側近の男性が紅に話し掛けた。 紅は理不尽だと言わんばかりに食い付いていたが、半ば強引に外へ引っ張られていった。 取り残された小町は、ようやく溜め息を吐く。 窓の外を流れていく海は、群青色に染まり、変わらぬ波の規律が続いている。 立ち上がり、窓の外を眺めた小町だったが…。 「猪鹿紅様」 後ろから呼ばれ、小町は振り返った。 多分、側近の一人だろう。 少年だったのか青年だったのか、スーツ姿を目にした所から記憶は無い。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1888人が本棚に入れています
本棚に追加