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何時までも泣き続ける紅の両脇を掴み、椅子まで運んでやったウーラは、小町が使っていた皿とスプーン、フォークを差し出す。
湯気の立つスープを注ぎ、パンを差し出した。
「…ほら、食え」
ぶっきらぼうにそう言って、ウーラも椅子に腰を下ろし、パンを口に運ぶ。
沈黙の中、紅は鼻を啜り、スプーンに手を伸ばした。
「…これ…小町のお父様のお店に出されてた野菜スープだわ…私…美味しくて…おかわりしてた…………私っ…寂しかった…小さなお店なのに、幸せそうに笑ってた小町が……羨ましかった…」
掬った野菜スープを口に運び、紅は苦笑いを浮かべる。
「…不味いわ…」
「…悪かったな」
「…でも…幸せの味がする…」
「…俺が幸せだからだろうな…小町が居てくれたらもっと美味くなると思う」
嫌いな女が目の前で笑った。
小さな紅は、大きな箱の中で退屈を持て余していたのだろう。
だが、紅が手に持っていた小さな箱は、行き場の無い思いを詰め込んだまま、行き場を無くした小町を押し込んだ。
小箱はいっぱいになって膨れ上がり、願望や妬み、寂しさを小町に食べさせて落ち着かせる。
自分をコントロール出来なくなってしまった紅は、小町自身を『箱』にしてしまったのだろう。
「理不尽な話しだな…」
「…貴方の…言う通りだわ…」
「話せば分かる奴なんだな」
「…失礼ね…」
「…小町が汚れるって事は、アンタ自身も汚れるからか…」
ピクッと動いた紅の肩をウーラは見逃さなかった。
コイツ…。
「アンタ…処女だな」
徐々に赤くなっていく紅の顔。
ウーラはまた腹を抱える。
「そうかそうか!そりゃお嬢様だもんなぁ!俺を誘惑するつもりでそんな露出の多い服を着てたんだろう?残念だったなぁ、あぁ、本当に残念だ」
「下品な!」
「あぁ?男ってのは下品なんだよ。頭ん中はイヤらしい事でいっぱいなんだ。でも安心しろ!アンタは対象外だ」
紅の反応は見ていて面白い。
単純な奴だな…。
ウーラにスプーンを投げつけた紅だったが、余程疲れているのか威勢が無い。
「…小町は俺が貰う。分かったならさっさと寝る事だ」
「小町は物じゃないわ!」
「アンタが言えた義理かよ」
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