1888人が本棚に入れています
本棚に追加
ウーラは畑で野菜を収穫していた。
籠には熟れたトマトと、小さな南瓜。
「こんだけあれば良いだろう…」
しかし可笑しい…。
小町は長谷部小夜子と会った筈だ。
猪鹿の家に挨拶に行き、全てを済ませてここに来た。
だが、どことなく暗いのである。
「ウーラさん」
呼ばれて振り返ると、やはり落ち込んでいるらしき表情をした小町が立っている。
「…アイツに何か言われたのか?」
「…いいえ…お嬢様はちゃんと謝って下さいました…私を自由にすると…」
ウーラは立ち上がり、膝の泥を払う。
見下ろした小町が、何時もより小さく見えた。
「…何があったのか、詳しく聞こう。その様子だと、日本で何かあったんだろ?」
図星らしい。
小町はウーラに抱き付いて、泣きながら地団駄を踏んだ。
「ウーラさぁぁぁん!…私…私……素知らぬフランス人からプロポーズされたんですよぉぉぉ!訳分かんないのにぃぃフランス人怖いぃぃぃぃ!」
「…なゎぁあにぃぃぃ!?」
『…小町…小町なのね…!』
空港にて、感動の再会を果たした母と子。
何だかむず痒くて、小町は抱き締められた腕の中で困っていた。
自分を産んだ母親は中々の美人で、とても似ているとは思えなかった。
だが、紛れもなく、小町の母親なのである。
そこまでは良かったのだ。
『ヴォンジュー!』
鼻高々のフランス人が、満面の笑みで挨拶をした。
…誰?
『あぁ、彼は私の友人の息子さんよ。私を心配して着いて来ちゃって…』
あー…そうなんですか。
等と流暢に思っていた。
迂闊だったと後悔している。
二人はフランス語らしき言葉で会話をし、小町は以前アラブに言った時の再来だと感じていた。
嫌ーな予感がする。
『小町を気に入ったみたいね。彼はジョルジオと言うの。仲良くして欲しいって』
ジョルジオと言うフランス人の青年は、甘いマスクで小町に微笑む。
彼は小町に近寄り、突然身を屈めた。
…チュッ
そうだ。これは挨拶なんだ…フレンドリーな挨拶なんだ…。
キスは挨拶、挨拶…。
挨拶って、口と口でしたっけ?
『…いやぁぁぁぁぁぁ!変態ぃぃぃぃ!』
ついうっかり、手が出てしまった。
『うっかり』より『しっかり』である。
最初のコメントを投稿しよう!