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―日本―
温暖化の影響か、まだ5月も終わりを迎えた筈が、都会は汗ばむ陽気である。
梅雨の始まりはまだ先だと、ニュースキャスターは伝えていた。
都内のホテルに滞在していた小町は、小夜子と共に賑やかなランチバイキングを楽しんでいる。
話しの内容はウーラの事だった。
小町はウーラとのお見合いを語り、小夜子は真剣に聞き入っている。
「…凄いわね…良く出来た小説みたい…」
「私も何だか、ドラマみたいな話しだと思ってました。実際、ウーラさんは素敵と云うか…やんちゃ坊主みたいで」
日本に直ぐ戻った三人が、各々で動いている。
小町は只、こうして19年間の穴埋めをしている訳だが…。
「ジョンがね、晩はレストランに行こうって、予約してくれたみたいなの」
「…へ…へぇー…た…楽しみですね!」
本当は会いたくない。
出来れば関わりたくない。
何とか笑顔を作り、小夜子に気付かれない様にする。
「…後で…二人のお墓参りに行かない?」
小夜子は躊躇いがちに口を開く。
小町の様子を伺っているのだ。
「はい!是非!」
「…有難う…小町は本当に、二人に似てるわね」
「…そう…ですか…?」
「えぇ。二人に貴方を任せて良かったって、心からそう思えるわ」
小夜子の笑顔に、小町はつい泣いてしまった。
本当の母と育ててくれた母。
その間にいた父。
例え過去に何があろうとも、小町は良かったと思えた。
心の中が暖かい。
小夜子が慌てて差し出したハンカチは、柔らかな香水の匂いがした。
母と同じ、花の香りがした。
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