不思議です!

12/19
前へ
/92ページ
次へ
―日本― 温暖化の影響か、まだ5月も終わりを迎えた筈が、都会は汗ばむ陽気である。 梅雨の始まりはまだ先だと、ニュースキャスターは伝えていた。 都内のホテルに滞在していた小町は、小夜子と共に賑やかなランチバイキングを楽しんでいる。 話しの内容はウーラの事だった。 小町はウーラとのお見合いを語り、小夜子は真剣に聞き入っている。 「…凄いわね…良く出来た小説みたい…」 「私も何だか、ドラマみたいな話しだと思ってました。実際、ウーラさんは素敵と云うか…やんちゃ坊主みたいで」 日本に直ぐ戻った三人が、各々で動いている。 小町は只、こうして19年間の穴埋めをしている訳だが…。 「ジョンがね、晩はレストランに行こうって、予約してくれたみたいなの」 「…へ…へぇー…た…楽しみですね!」 本当は会いたくない。 出来れば関わりたくない。 何とか笑顔を作り、小夜子に気付かれない様にする。 「…後で…二人のお墓参りに行かない?」 小夜子は躊躇いがちに口を開く。 小町の様子を伺っているのだ。 「はい!是非!」 「…有難う…小町は本当に、二人に似てるわね」 「…そう…ですか…?」 「えぇ。二人に貴方を任せて良かったって、心からそう思えるわ」 小夜子の笑顔に、小町はつい泣いてしまった。 本当の母と育ててくれた母。 その間にいた父。 例え過去に何があろうとも、小町は良かったと思えた。 心の中が暖かい。 小夜子が慌てて差し出したハンカチは、柔らかな香水の匂いがした。 母と同じ、花の香りがした。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1888人が本棚に入れています
本棚に追加