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時刻は既に9時を回り、食事会は曖昧なまま終わってしまった。
良かったのか悪かったのか。
ホテルに戻ると、ウーラと紅はロビーで小町を待っていた。
まず、ウーラは小夜子に深く頭を下げる。
「申し訳ない!」
何故謝られるのか分からない小夜子は首を傾げた。
「私はウグドラ・クォルタプスと申します。挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」
「あぁ!」と、小夜子は声を上げた。
「レストランにいらした方ね?まさかウグドラさんとは思いませんでした」
「小町が困っていたので、彼女と二人、何とか出来ないかと…」
くどくどと説明するウーラを押しのけ、次に頭を下げたのは紅だった。
「本当…ごめんなさい!私…猪鹿紅と言います。長年に渡り大変失礼な事をしてしまいました…小町さんを勝手に…本当に申し訳ありません!」
「…そうね…連絡も取らせてくれなかったから…何時か告訴しようかと思ってたんだけど、小町から全て聞いたの。小町はもう気にしていないみたい。だからもう良いのよ?頭を上げて…」
この10年と云う月日は、小町や小夜子、紅が悩んだ時間でもあった。
上手く行かない苛立ちや、頭の片隅にあった不安に振り回された時間。
今、10年の蟠りがほどけていく。
「…小町…」
ウーラの声は優しい。
小町は何だか目頭が熱くなって、隠す様に鞄に顔を埋めた。
本当はウーラに頼りたかったけれど、小夜子も紅も居るこの場で、小町は我慢するしかなかった。
だが、ウーラの指先が髪に触れると、小町は安心して意味も無く頷く。
『良かったな』
テレパシーが伝わってくる。
少し心配そうに触れたから、小町はまた頷いた。
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