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小町と紅は、近くのカフェへ向かった。
ウーラが小夜子と話しがしたいと申し出たからである。
ホテルの最上階にあるバーで、二人は夜景を眺めながらカクテルを飲んだ。
「…こんな時間に申し訳ない限りです」
「お話って、結婚の事でしょう?小町からもう耳にタコが出来る位、聞いてます」
それ程、小町はウーラについて良く話した。
あの孤島で過ごした1ヶ月、色々な思い出を語る小町の表情は輝いていた。
「あの子は…確かに私が産んだ子供です。ですが、育てたのはあの夫婦。私は只の『叔母さん』で居られるだけでも有り難いと思っています」
「…一緒に居たいと思わないのですか…?」
「あの子の人生です。私は縛る様な事はしたくないので。あの子が自由に生きられる手助けが出来ればと思っています」
輝く夜景の様な、夢見る様な瞳で、小町はウーラを語る。
小町の伸ばした手を取ったのは、紛れもなくウーラなのだから。
「…私の両親と会って貰えませんか?来月にはエジプトへ調査に行く予定なんですが…小町に見せてやりたいんです!あの神秘と不思議、世界の謎がどれだけ素晴らしいかを!」
と。言っておきながらウーラは後悔した。
お金や女、食事より世界の歴史を、謎を愛したウーラが、結婚に意欲を燃やした事等無かった。
中々上手く言えず、小夜子の返事を待つウーラ。
そして、小夜子は笑った。
「私、初めてお話を書いた時、まだ夢見がちな女だったの。お話の主人公は『小町』と言う淑やかだけど、内に熱情を持った女の子。小町は異国の男性と恋に落ちて駆け落ちするの。まだ見ぬ世界は不思議に満ちていて、小町は色々な事を学んで、やがて自分の道を切り開いて行く…まるで小町そのものよね。私は預言書を書いたつもりは無かったんだけど」
「…駆け落ち…」
「嫌だわ!だから預言書ではないのよ?只…貴方と居られたら、小町は幸せよね」
嬉しかった。
素直にそう思える。
小町と二人なら、どこまでも行ける気がした。
オーパーツである金ピカの『黄金ジェット』のモチーフが魚ではなく、本当に飛行機だったのなら…。
どこまでも二人で行ける。
そう、ウーラは思った。
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