旅立ちです!

6/12
前へ
/92ページ
次へ
「では…結婚式に関しましては、若いお二人に任せると云う事で」 小町の耳には『若いお二人に任せると云う事で』と、だけ聞こえ、ようやく二人きりになれるのだと安心した。 内容があまり理解出来なかったので、早く訊いておきたいと気持ちは急いでいる。 ウーラは両親や小夜子と何やら会話をし、小町に向き直った。 「小町」 「…はい?」 「荷物を纏めろ」 「はい……えっ?」 荷物を…纏める? 言われた通りにしたいが、荷物も何も、既に手元の古風な鞄に纏めてあった。 「ありますよ?荷物、ここに全部」 「馬鹿。日本を発つ準備をしろって言ってるんだ」 日本を発つ? 何時から?今から? 仕事の都合上、ウーラが日本を経つのは来月だった筈。 エジプトへ行くのはまだ先だ。 小町が悩んでいると、ウーラのこめかみがピクピクと痙攣している。 何で怒ってるの!? 小夜子の手前、小町を強く叱れないのだと分かると、慌てて立ち上がった。 「良し!今からホテルに行って『必要最低限の物』を持って直ぐに連絡しろ。分かったら早く行け」 強引も強引だ。 小町は頬を膨らませ、ウーラの両親と義叔母に一礼すると、踵を返して小夜子を引き連れ足早に去って行った。 「小町ちゃんが不憫でならないわ…亭主関白ってアラブにもあるのね」 「誰が?」 「君…自覚ないの?小町ちゃん、絶対苦労するよ?」 教授の予想を、ウーラは既に認めていた。 優しいと言えない。柔和な性格でもない。 気が強い頑固者。頭はガチガチ。 研究になると周りが見えなくなってしまう。 自覚はしていた。 小町に苦労を掛けるだろう。 小町を泣かせてしまうに違いない。 だが、小町が良い。 『諦め』を見ぬ振りして、ウーラは我が儘を通す。 「…俺は…変わり者だからな」 そう呟いて、ウーラは観念した様に笑った。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1888人が本棚に入れています
本棚に追加