旅立ちです!

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「必要最低限の物…」 ブツブツと呟きながら、旅行鞄に荷物を詰めて行く。 必要最低限と言われても、排除する荷物が無い。 それ程の荷物を所持していないのである。 部屋を散らかすまでもなく、簡単に作業を終えた。 「…これって…嫁ぐ準備なのかな…」 じゃあ…小夜子さんとお父さんとお母さんに挨拶しなきゃ…。 「小町。ウグドラさんがみえてるけど」 小夜子が後ろから声を掛けると、小町は向き直って頭を深々と下げた。 「小夜子さん、私を生んでくれて有難う御座いました。そして私を引き取って下さった事、感謝しています」 「…小町…」 「不束者の娘でしたが、今まで有難う御座いました」 …シーン… 小町は頭を上げぬまま、「しまった!」等と後悔する。 会ったのはつい最近であるし、お世話になるも何も、この数日間しか迷惑を掛けていない。 あ、連絡出来なくて長い間迷惑掛けた…よね? 恥ずかしくなって中々頭を上げられない。 小夜子からの返事を待つのみである。 「小町?それは貴女のお父さんとお母さんに言うべきじゃない?」 小夜子の返事に、小町は慌てて顔を上げた。 肩を震わせ、笑いを耐える小夜子を見て、小町は恥ずかしさから顔が熱くなる。 「…プッ!ご、ごめんね!律儀だなぁって思って!」 「…す…すいません…」 「…でも…嬉しかった。少しでも一緒に居られて…幸せよ。小町、夫婦ってお互いにとてつもないパワーを使うと思うの。知らない相手と、恋愛の延長線から家族になるって難しい事よね。だから嫌になる時も必ずあるわ。私は…圭二さんが好きだったし愛していたけど、家族にはなれなかった…。なれたとしても駄目になってたと思う。お互い夢ばかり追ってたから…」 小夜子が言う通り、父は毎日毎日夢を語っていた。 だが母は、「はいはい」と笑って促すだけ。 店を大きくしたい、もっと良い場所に店を構えたい。 そんな予算は何処にも無かったから、母は時折呆れた様に溜め息を吐いていた記憶。 小夜子には無理だった「現実」を母は良く理解していたのだ。 夢見がちな父を諫められたのは、誰でもない。 母だけである。 「男は何時までも夢を追う生き物よ。ウグドラさんの頭の中って、夢とかロマンで出来てるんじゃない?きっと反発する事だってあるだろうけど、小町はお母さんに似てしっかりしてるから大丈夫よ」
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