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「……」
居たたまれない雰囲気の中、男性は小町を家の中に案内し、お茶を出してくれた。
褐色の肌と、漆黒の髪。
同じ色の瞳。
白いシャツとジーンズ、麻のエプロンと草履。
精悍な顔付きでこちらを睨む。
「あの…あっと…サンキュー」
「日本語で良い」
無愛想に答えた男性は、小町をジロジロと観察して皮肉にも笑った。
「アンタ、名前は」
「……長谷部…小町と言います…」
日本語が通じるだけ有り難いのだが、この男性はいけ好かない。
「…猪鹿紅じゃないのか…」
「…お嬢様を…ご存知なんですか…?」
「…俺の見合い相手だ」
…見合い…相…手?
頭のネジが急激に締まった。
「見合い相手!?何故こんな所に!?」
「…アンタは身代わりって訳だな。まぁ良い。俺は見合いする気なんて更々無い。煩い親父が見合い相手を勝手に連れて来るんだ。俺は家を継ぐ気もなけりゃ、結婚する気も無い」
「…はぁ…さいですか…」
じゃあこの話しは初めから無いじゃない?
私がどうこうした所で意味無かったんだ…あーぁ。
小町は安心してお茶に口をつけた。
この男性に話しを着けて、帰ったら良いのだから。
「…お嬢様は貴方様と同じ考えです。お見合いは無かった事にして下さいます?良ければ電話、貸して下さい。直ぐにおいとましますから」
ニッコリ笑った小町だったが、男性は溜め息を盛大に吐いた。
「残念だな。つい先日、定期船がこの島を去ったばかりだ。ついでに連絡手段は無い。つまり、1ヶ月待たないと定期船は来ないって訳だ。帰るにはその方法しかない」
暫し、長閑過ぎる時間が流れた。
小町の時間も若干止まっている。
「隣に小屋がある。好きに使え」
「…はぁ…」
「俺は独りが好きなんだよ」
「…はぁ…」
「後は自分で何とかするんだな」
「お前…馬鹿じゃねぇのぉぉぉぉ!?」
馬鹿じゃねぇのぉぉぉぉ…
馬鹿じゃねぇのぉぉぉぉ…
馬鹿じゃねぇのぉぉぉぉ…
この時ばかりは、身の上の不幸を呪った小町であった。
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