烙印

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「お前たち、この女の発言を聞いたな!」突如、『あいつ』が廊下全体を見渡しながら、声を張り上げた。  それを皮切りに、さっきまで深い夢の世界にいた筈の徒輩が、いきなり騒ぎはじめた。四方八方でたくさんの野次が飛び交いだし、中には己の牢の鉄格子を何かで叩き、ガチャンガチャンと音を響かせ存在を主張する者もいた。この喧騒にわたしはいたく恐怖を覚え、握っていた鉄格子にしがみつくようにした。ふと見た腕には、粟がぽつぽつと生じていた。 「認めたな! 認めたな!」鼻息を荒くして『あいつ』は連呼した。そしてわたしの牢屋の錠を外し、どこからかやって来た二人の部下を引き連れ、中にずかずかと入り込んできた。「さあ、こちらに顔を向けろ」  当然こんな奴らに抵抗できる訳もなく、わたしは命令されるがままに顔を持ち上げる。『あいつ』の持つ懐中電灯の光がわたしの顔にぴったり焦点を合わせており、わたしは眩しさのあまり、腕で顔を覆い隠した。  しかし、『あいつ』の部下たちがわたしの腕を掴み、わたしは万歳する形にさせられてしまった。「さあ、最後の仕上げを行おうか」と『あいつ』が言った。 『あいつ』がゆっくりと近付いてくる。手には、金色に光り輝く謎の鎚状の物体があった。柄には規則正しく蛇の背のような模様が彫られており、頭部には赤くて微小な金釘のような物が付いている。その矛先がわたしの顔に向かって、段々と大きくなって迫ってくる。
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