烙印

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 パイプばかりが張り巡らされた無機質な灰色の天井の一隅から、ある時突然、水滴がぽたぽたと落ちてきた。わたしは痩せ細ってしまった脆弱な体を一生懸命ベッドから起き上がらせた。しばらく切っていないぼさぼさの髪が、肩や二の腕などをちくちくと刺してくすぐったかった。  先ずは首を少し伸ばし、鉄格子の外の様子を念入りに伺う。相変わらずじっとりとした暗鬱な闇が広がっている。そこに『あいつ』の姿は一切なく、わたしは胸をほっと撫で下ろした。  念には念をと、わたしと同じ境遇に立たされている人達の様子も確認してみようとしたが、鉄格子の隙間からでは上手く目することができない。わたしと彼らの間には、視界を狭くする鉄格子が二つもあるのだから、当然と言えば当然だった。そうでなくとも、ここにいる人間はお互いのことを気に掛けていられる程の余裕などなかったので、きっとわたしが何をしていようと関心など持ちはしないだろう。皆、自分のことで一杯一杯なのだ。  そうこうと思慮してから、わたしはゆっくりと水滴に近付いていった。老婆のように腰や脚を曲げたみすぼらしい歩き方となってしまった。それしかできなかった。腕や脚などは枝みたいな細さで、骨に辛うじて皮が貼りついているだけだった。肌にしても、枯渇したようにガサガサの荒れ地状態で見るに耐えない。
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