烙印

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 わたしは、六つ年上の夫と五歳になる娘との三人で幸せに暮らしていた。入籍してから五年が経っていたが、わたしはまだ二十六歳で、近所の公園で娘を他の家の子供たちと遊ばせながら、化粧の濃い、顔の崩れだした中年の主婦たちに「綺麗なお母さんね」と何度ももて囃されたものだった。  また、夫の上司などが我が家に来訪した際も、「こんなに綺麗な奥さんを持って、お前は幸せ者だな」と小突かれては顔を紅潮させる夫を見て、とても誇らしい気分になったものだ。  しかしわたしは、自分の艶冶(えんや)は若さと共に去っていってしまう運命にあることを存知していたので、ジョギングを日課にし、栄養の摂取にも細心の注意を払い、決してそれらを途切れさせないように努めた。その甲斐あってか、わたしの体年齢は二十歳を維持し続けていた。毎夜毎夜、風呂場の鏡で自分の艶やかな体型を様々な角度から見てはうっとりとしていたものだ。  それがどうだ。今の自分の醜い姿ときたら。ジョギングどころか、ベッドから起き上がるのも歩くのも精一杯。あれだけ見飽きることなく鑑賞していた体は、最早ミイラと言っても過言ではない。  わたしは無性に泣きたくなった。でも流す為の涙はもうどこにもない。それこそまさに、枯渇してしまった。
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