烙印

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 わたしが帰参したら、夫と娘はどう思うだろうか。娘は現在いくつになっているのだろうか。あの年頃の子は成長する速度が著しく速い。ちょっと会ってない間に随分と雰囲気が変わってしまう。わたしの知る時点では、わたしに似て容姿が同年代から抜きん出ていた。もしも平凡になってしまっていたら、どうしよう。ましてや、平凡以下にまで墜ちてしまっていたら……。わたしはちゃんと娘を受け入れられるのだろうか。いや、そもそも、一番変貌が酷いのはわたし自身だ。娘や夫は、この醜悪な姿態を晒すわたしを受け入れてくれるだろうか。いや、もしかしたら、わたしだと気付いてさえくれないかも知れない。それを否定できる材料がわたしにはない。  怖い……。  わたしは不思議な魔力に吸い寄せられるように、水滴の場所へと急いで戻った。今のこのどう仕様もない不安を取り除いてくれる、とはまではいかなくても、薄めてくれるのはこの水しかない。  わたしは鬱勃たる興奮を抑えきれず、躍起に雫を飲もうとした。恥などそっちのけに、膝と腰と首を四十五度ほど曲げ、ぷるぷると震わした。のべつまくなしに余喘のような息を吐いた。  しかし、水は口の中に決して入ってこなかった。雫の道筋に上手く口を持ってくることができていなかった。雫はただ、わたしのつむじで小さく跳ねるだけだった。
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