烙印

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 わたしは疼痛を感じながらも体を更にぷるぷると震わせ、口の位置を移動させようと膝や腰の角度を調節しはじめた。しかし幾らやっても上手にいかない。やがて、干からびた体に限界が訪れた。曲げていた箇所に急激な痛みが走り、体に加えられていた力が一斉に抜けた。  以前ならば、尻餅をついたら精々、尻に痺れのようなものが走るだけだったのに、尻に金属バットか何かで殴られたような衝撃があった。そして間もなく、腰に電流が走った。かつてない激痛にわたしは顔を歪め、下半身の支配権が自分から別の何かに移っていくのを感じ取った。  気付けば、鼻腔を刺激する尿の臭いが辺りに漂っていた。一体何事かとわたしは暗い牢屋の中を見渡した。ベッドと簡易トイレと格子付の小窓があるだけで、別段異常はない。その場に座り込んだまま、鉄格子の外の様子を伺ってみる。夜だから寝静まっている。音と言えば、周りから鼾声が聞こえてくるくらいだ。『あいつ』もいない。やはり何も異常はない。  ふと真下に視線を向けてみると、わたしを中心として円形の染みが床に広がっていた。臭いの発生源はここだった。わたしはもう、現実から目を背けたかった。  わたしは床に手を付き、必死に立ち上がった。その際、掌に生暖かくて不快な液体の感覚が貼りついた。脚にも生暖かい感覚が何本も伝って垂れていたが、それもなるべく考えないようにした。
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