烙印

8/13
前へ
/13ページ
次へ
 わたしは悔しくて堪らなくなり、鉄格子に近付き、ぎゅっと力強く握り締めた。「そうやって余裕綽々としていれば良いわ。見ていなさい、今すぐにこの牢をぶち壊し、あんたを殺して喰ってやる。後から命乞いしても無駄よ、わたしはあんたの血肉を喰らって若返る算段だから」  無理やり語気を強くして言ったからか、わたしは噎せ返ってしまった。鉄格子を挟んで接近していたので、わたしの咳の飛沫が『あいつ』の頬に付着した。わたしは密かに心の中でしてやったりと思った。  すると『あいつ』は頬を手で撫で、くっくっくっと可笑しそうに口角を吊り上げた。「ほら見ろ、お前が認めていようがいなかろうが、真実はこの通りだ。本当にお前は、自分自身を見れていないんだな。牢をぶち壊す? 俺を殺して喰う? 冗談は休み休み言え。お前は単なる老いぼれだ!」  わたしは自分の内に渦巻く黒い感情に支配された。こいつ、許さない、許さない! しかし、幾ら腕に力を加えようとも、鉄格子が曲がることはなかった。「そんな、そんな!」 「ようやく気付いたか、この牢屋はお前の為に作られたものだ。お前に合わせて大きさや色も決められた。ベッドやトイレ、窓の位置なども全てだ。無論、お前には壊せない特性の鉄格子にしてある。お前を牢から出せるのは、唯一無二、俺だけなんだぞ」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加