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「あっ、待て!」
透希は影を追いかけた。
影はすばしこく、なかなか捕まえることが出来ない。
透希の目に入る頃にはいつも廊下の角を曲がってしまっている。
その影が何なのか、それだけを確かめたくて、透希は影を追いかけた。
「はぁ‥はぁ‥おい、待てよ!」
磨かれた大理石に透希の足音だけが響く。
影はもちろん透希の声など聞いてくれるはずもなく、どんどん先を行く。
しかし必ず、廊下の角を曲がるところで、透希の目に入るのだ。
透希のスピードが遅れても、躓いても、影は必ず行き先を知らせた。
どれくらいこの不毛な鬼ごっこを続けただろう。
透希はもはや自分がどこにいるのか、さっぱり分からなかった。
ただひたすら影を追いかけ、走り続けた。
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