世界が全ての色を喪った時

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透希。 それが彼の名前。 とき。 彼は今、日常生活に押し潰されそうになっていた。 ――くだらない。 コントローラーを握りながら、彼は心の中で独り悪態をつく。 ――何やってんだ、俺。 ここのところ毎日、彼はちょこまかと動く彼の分身を動かしていた。 決まったストーリーを歩む主人公。 世界はそこだけにしかなく、選択肢も一つしかない。 まさにレールの上の人生を歩む彼。 波瀾万丈でありながらも、それ以外の人生は送れない哀れな存在。 透希は、揺れていた。 何かしなければと思うのに、それが分からない。 何も出来ない自分に苛立ち、悲しみ、そして独りぼっちの寂しさに喘いでいた。 その苦しみから逃れたくて、ひたすら擬似世界にのめり込んだ。 しかしそれもまた、彼を苦しめる一因であることに、変わりはなかった。 ――酷く、心が、ざわついて――
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