日常が非日常へと変わる瞬間

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「此処は良い所で御座いましょう」 どれくらい時間が経ったのだろうか。 気が付いたら、人の良さそうな白髪の老人が一人、微笑みながら立っていた。 きっちりと手入れされた燕尾服に身を包み、顔には真っ白な髭を蓄えている。 いくらか年は重ねているようだが、背筋はぴんと伸び、杖もついていない。 「この季節は特に気持ちが良いのです。風は柔らかく、華は咲き乱れ――どうです、心が落ち着くでしょう」 老人はにこやかに微笑んだ。 「透希様、で御座いましたかな」 透希は、突然現れた見知らぬ人間に戸惑いながらも、首を縦に振り、頷いた。 「え、ええ‥」 「よくいらっしゃいました。お待ちしていたのですよ」 「え?待って‥?」 狼狽する透希に優しく微笑み、老人は部屋の扉を開いた。 「どうぞ、詳しいお話はお茶でも飲みながら致しましょう」 老人に促されるまま、透希は部屋の外に出た。
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