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透希は差し出されたカップを、促されるまま手に取った。
頭の中には疑問がまだまだ残っていたが、もう卯咲執事は紅茶を静かに味わいながら、目を閉じてしまっていた。
「‥‥まぁ、悪くはないところだな」
目の前には美しい少女が象られた噴水が陽の光を反射し、穏やかな風が色とりどりの華を揺らしている。
木々は涼しげな木陰を演出し、小鳥が巣を作っていた。
中庭なのであろうそこは、お茶を飲むには絶好の場所‥
卯咲執事の言う通り、とても気持ちが良い。
「しかし、一体どこなんだ、ここは。こんな城‥見たことも聞いたことも‥」
第一、城なんて。いつの時代だよ。
透希は紅茶を飲み終わると、中庭を歩いた。
噴水の下の池には小さな魚が泳いでいる。
鳥は見たこともない色で――透希が近付くとすぐどこかに飛んで行ってしまった。
壁沿いに歩いていくと、窓から中の廊下が見える。
部屋の扉は全て閉まっていたが、これだけ広い城だというのに廊下を歩く人間は誰もいない。
使用人なども、卯咲執事の他には誰一人として、動く気配はなかった。
が――
「ん?」
とある扉の中、何かが走った。
何かは分からなかったが、磨かれた廊下を、何かが横切ったのだ。
透希はそのまま扉を開け、その影を追って城の中へかけ込んだ。
「‥元気がよろしいことで。ほっほっほ」
残された老人は細く目を開け、微笑んだ。
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