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店の中は、古書堂という名のとおり古い本が書棚を埋めている。
薄暗い店内に舞う埃に、窓から差し込んだ日の光が当たり、真っすぐなオレンジの線を描いていた。
一歩、二歩と足を踏み入れる。
外の砂利が入り込んだ床が、ジャリっと小さく音を立てた。
なんだか不思議な空間に迷い込んだような感覚に陥り、彼は足を止めて店内をぐるりと見渡してみる…
古書がメインだが、外の人形のようにちょっと意味不明な備品もあるな…と、店の奥へ視線をうつすと…………
「おや。いらっしゃいませ。」
ここの店の主人だろうか。店の奥から出て来た二十代後半と思われる男性と目があい、ビクリとする。
…………べつにやましい事などなにもないのだが。
「あ……あの…」
自分でも、情けないなと思えるつぶやきがポロリと口からこぼれでた。
そんな彼をさして気にした様子もなく、店主らしき人物は、草履をつっかけて彼の側へと歩んで来た。
目が非常に垂れ目で、片眼鏡。
肩より長く伸びた髪の所々が、ミツアミされている。
浴衣よりはもう少しシャンとした、楽そうな和服姿がよく似合っていた。
「若いお客さんとは珍しい。何かおさがしかな?」
笑顔のやわらかい人だ。
少しだけ緊張感がほぐれて、肩の力を抜いた。
………ていうか、何緊張してんだ、オレ。
と、少々恥ずかしくもなる。
いまさっき受けてきた面接だって、緊張などカケラもなかったというのに。
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