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「いや………客っていうか………」
少々困ったように視線を泳がせた後、思い切って聞いてみる事にした。
店主(らしき人)の目を、真正面から見る。
「ここ、求人誌に載せてた………よな?」
眠たげに垂れた目が、ちょっと開いたような…気がした。
いや、実際はよくわからない。
ぼんやりした表情は、なにを考えてるのか汲み取りづらい。
「おやま。お仕事希望な方。これは失礼。」
………笑った。これはわかりやすい。目がただでさえ細いのに、さらに細まって線になる。
「あ………と。希望っつーか…話しを…」
「いつから来れますかねぇ。明日?まぁ今からでもいいんですがね。そちら方にも都合があるでしょうし…」
「ちょ…待て待て待て待て!」
懐から取り出した扇子をヒラヒラさせながら、店の奥へと歩いていく店主を、彼は慌てて止めた。
その声に、店主のほうがキョトンとして振り返る。
「…………何か?」
「何か?じゃなくて…え?面接とかは?」
「…………いや、別に?」
…………………。
たぶん、会話が成立していないんだろうな…ということだけは、彼にも理解できた。
「…………そもそも……どういう仕事かも…」
ちょっと沈黙の時間が気まずくなり、彼が口を開いた時………
ガダガタという音を少し通り越した、破壊音に近い音を立てて入口の扉が勢いよく全開にされた。
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