霧生古書堂

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########## 「いい加減なんとかしなさいよ、アンタ」 聞き慣れた母親のセリフに、ソファーに埋もれて週刊漫画を読んでいた青年は、一瞬チラリと視線を上げた。 馳部 奈桜(ハセベ ナオ) 十九歳。 「うっせババア。わかってるよ。」 明らかに気分を害した、といった様子で、再び漫画に視線を落とす。 母親は、彼に聞こえるように鼻をならすと、バタバタと身支度にとりかかった。 今は午前9時半。彼女は今から仕事に出勤である。 「じゃ、いってくるから!」 漫画を数ページ読み進めたところで、母親のいつものセリフが聞こえてくる。 その声に、振り返るでもなく後ろ手に手をヒラヒラと振る。 そしてバタンと扉の閉まる音がした。
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