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「や~残念ですが、今回はご縁がなかったということで………」
翌日。
彼はとあるホームセンターの事務所にいた。
目の前には、少々頭の毛が勢いを失いかけている四十前半のオジサンが。
彼に履歴書を返却しながら、愛想のよい笑顔を浮かべている。
「そうですか。わかりました」
「またお願いしますね」
何をどうお願いするのか。事務所の出口の戸を開けながら、オジサンはなおも笑っている。
その笑顔にひきつった愛想笑いを浮かべながら、彼はホームセンターを後にした。
明るい茶髪に、ピアスが二つ。
見た目が気に入らなかったのならば、はっきりそう言ってくれ、と。
帰り道、自転車をこぎながら、内心悪態をついていた。
パッと見渡した限りでも、あの店に髪の茶色い者はいかなった。
おそらく規則だかなんだかだろう。
彼のような………平たく言えば『チャラチャラした』外見の者は好まれない。
自分でもそれは自覚している。しかし、あのオジサンの遠回しな言い方が気に食わなかった。
「俺に何をお願いするんだっつーの!」
通り過ぎざま、道の端に置いてあったゴミ箱を蹴倒す。
飲食店の裏口だろう。ゴミ箱が、盛大な音を立てて背後で転げたようだった。
「てめぇ、なにしやがる!」
「!」
運悪く。
ちょうど店の従業員が出て来たところだったらしい。
自転車をこぎながら背後を振り返れば、コック服のような物を着たガタイのいい男が、こちらへ走ってこようとしていた。
「すんませんしたぁ!!」
彼は大声でそれだけ叫ぶと、1番最初に目に入った路地へと勢いよく曲がりこんでいった。
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