霧生古書堂

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(ツイてねぇ………マジでついてねぇっての…………) 裏路地に、キィコキィコと自転車の音が響く。  男の追跡はしつこいものではなく、すぐに追っ手はなくなった。  見慣れな細い路地を、ざっと家の方角であろう方向ヘ向かっている。 方向感覚には自信があった。 せっかくバイトでもいいから仕事をしようとした矢先にこれである…… いやがおうでもヘコたれるしかない。 行き止まったT字路を、適当に右へ折れ、さらに路地を奥へ進む。 少し古臭い………じゃない、古きよき雰囲気が漂い出したその路地を、彼は速度を落として進み出した。 「刀鍛冶」「古美術」 そんな店看板が目につく。 どうやら昔からある商店街にでも迷い込んだらしかった。 まだ昼日中であろうはずなのに、高い建物に挟まれるようなカタチで通るこの路地は、薄暗い。 日の光が届くことはなく、代わりに店先に吊されたランプが、柔らかいオレンジの光りを路地になげかける。 そのランプの光りに、彼の影が妖しく伸びては縮み、コンクリートの壁を滑っていった。
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