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 門が壁になるのは、簡単な結界である。  そしてディーテリヒがある程度の魔法を使えば、力ずくで結界を崩すことも出来る。  それなのに毎朝わざわざ人が捌けた時を見計らって門番に声を掛けるのは、結界を崩して入ることに意義が感じられないのと、ただ単に門番と……いや、ドーキーと話をしたいからだ。  見た目、どこにも差異の見当たらない双子の門番。それを見分ける条件は魔力の些細な質と量の違いなのだが、そこの部分は割愛するとして、ともかくディーテリヒはその差異を見分け、毎朝必ずドーキーに声を掛ける。  その回数、今日で三百七十回目。  ――それはすなわち、彼が登校した回数であり、ドーキーに編入生扱いされた回数である。 (勿論、一番最初はそれで正解だったんだ)  しかし残りの三百六十九回はハズレ。何回目からだったか、間違えられる度に相手に質問をするようになり、律儀に返すあの番人の人となりを一方的に知ることとなる。  そこに生まれるのは一方的な親しみ。  彼はいつか――そんな事が起こりえる筈がないと分かっているのだが――あの番人が自分に向かって「やあ、ディーテリヒ」と胡散臭い笑顔で声を掛けてくれるのではないかと、希望に似たものを抱いていた。
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