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 ドーキーの名誉のために付け加えると、かの番人がそれ程までに忘れっぽい性格という訳では決してない。  普通ならば同じ生徒相手に三百七十回も職員室の場所を教えたりなどしないだろう。  それはつまり“間違えられる側が普通ではない”ということと同じだ。  門から校舎までを繋ぐ石畳の道を渡り本棟に入った。  この学園の校舎は初等部の使うA棟、中等部の使うB棟、高等部の使うC棟に、多目的に使うD棟。それら四つの棟すべてに連絡通路を持つ本棟を合わせて、計五つの棟で成り立っている。  最低は十二歳から最高は二十二歳までの生徒達が、朝のこの時間は本棟にてひしめき合う。  そんな彼らの隙間を縫うように、ディーテリヒは本棟の中を進む――彼ではない誰かが、混雑に紛れ足を踏まれたらしく「誰だ、俺の足を踏んだのは!」と喚いていたが、それすらこの雑踏に踏み潰され聞こえなくなった。  黙々と彼が目指すのはC棟。  高等部第二分野。それが、普通の学校で言う学年に値する。
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