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 この学園は単位制でクラスがなく、コースによって決められた基本的な教科さえ受ければ、残りは好きな教科を選んでいい。  好きな分野を好きに学ばせる。それが学園のスタイルだ。  C棟の二階。第三階段教室。  今日そこで行われる朝一番の授業は、魔法学Ⅰ。実技と筆記で分かれる魔法学の、これは筆記の方である。  横に滑らせる種類の扉は開けられたまま、授業が始まるのを待っているのであろう生徒達のお喋りが廊下にまで漏れ出しては楽しげに跳ねて、ディーテリヒの横を通り過ぎていった。  それに対して彼は無反応に、無感情に徹して教室の中に足を踏み入れる。  賑やかな空気。おおよそ十九歳から二十二歳が集まる高等部の、若さと活気に溢れた教室は半数以上の席が埋まっている。  お喋りに夢中の彼らの中でもぽつぽつと、明らかに単独行動をしている風な生徒は見られたが……それも彼と少し違う。  ディーテリヒはそんな中ただ黙って、教卓と向かい合う一番前の席に座る。  誰もがなんとなく避けてしまう、通称「アリーナ席」。  現に、アリーナ席の周りはぽっかりと穴が空いたように人がいない。   そこに少しの迷いもなく座ったディーテリヒは、椅子の背もたれに体を預け、小さく息を吐いた。
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