第1章

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 そんな奇異には慣れた様子で、男はただ呆れ混じりのため息をつく。 「あのですね、師匠。せっかく定型で報告してるんですから、定型で返してくださいよ」  その声には先程のような気怠さも、冷酷さも、機械のような無感情さもない。声変わりした、それでもまだ大人にはなりきれないソレ。  ころころ、鈴を転がすように相手は笑う。 『嫌ですよ、面倒くさい』 「あなたが考えたんでしょうが……」  言い返すも鈴の音にあっさりとかわされて、余計な疲労として男の肩にのし掛かった。  もういいです、と疲れた声で男が言うと、相手は宥めるように。 『まぁまぁ、とにかくお仕事お疲れ様でした。あとそれから』 『いってらっしゃい』  表情すら頭に浮かぶような、愉しげな声だった。 「……いってきます」  その会話を最後に、不思議な声は聞こえなくなった。  途端に冷ややかな空気が服の下に入り込み、男は小さく身震いしながら右耳を撫でる。その耳朶には、彼の目の色とよく似た紫水晶色のピアス。  地平線の向こう側、白んだ空が夜明けが近いことを知らせている。  男はその光から逃げるように、路地を去っていった。 第1章 死神と赤い百合
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